今週のお題「ねこ」
*「読書日記」では、ネタバレには一切注意を払っていません*
↓これを読んだ。
「正字正かな遣いクラスタ」の具体例を知らないので、いまいちどう格好悪いのかわからなかったけど、この文章を読んで歴史的仮名遣いにこだわっていた丸谷才一のことを思い出した。
私は、丸谷才一を、もっぱらジェイムズ・ジョイスの訳者として知っている。確か、絵本も持っていたはず……。『猫と悪魔』という本だ。 まずは絵がかわいい。悪魔もユーモラス。
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ストーリーは昔話によくある「悪魔をだます話」だ。悪魔が町のために橋をかけてやると申し出る。ただし、最初に渡った者は彼の家来になること。市長はこれを了承する。そして、かかった橋のたもとにくると、抱えた猫を下におろし、バケツいっぱいの水をかけるのだ。猫は一気に橋を駆け抜け、悪魔の腕にとびこむ。
この時の悪魔のせりふがいい。「バルジャンシャンの人々よ!と彼は橋の向こうから叫んだ。君たちはちつともきれいな連中ぢやないぞ! まるで猫みたいだ! そして猫に言ひました。おいで、かはいい猫! こはいかい? かはいい猫。寒いかい? かはいい、かはいい、かはいい猫。おいで、悪魔がお前をつれてゆく! 二人して、あつためあはうぜ。」腕に抱かれている猫の絵もかわいい。
最終ページには、猫をかかえて去っていく悪魔の後ろ姿が描かれている。そして、悪魔はたいてい「べらべらぺちゃぺちゃといふ言葉」(原文は "Bellsybabble" これはジョイスの造語らしい)を話すけれど、ひどく腹を立てた時はフランス語で上手に悪態をつく、それにはきついダブリンなまりがある、という内容の文で締め括くくられていて、あれ? 悪魔の正体って……と思う。
巻末には「ジェイムズ・ジョイス『猫と悪魔』(大澤正佳)」と題した数ページほどの解説がある。ジョイスとその孫の写真が掲載されているが、その顔は、作中の悪魔の顔とよく似ている。
この絵本には「表記についてのあとがき」という丸谷才一の文も載っている。その中に「文部省の国語政策、およびその根底にある明治維新以降の日本文明の性格に対する私の批判は、とても一言で言ひ盡すわけにはゆきません。詳しくは、拙著『日本語のために』(新潮社)をごらんください。」と書いてあるので、興味のある方は読んでみてはいかがだろうか。私は……気が向いたら読んでみる。
以前、横光利一の作品を読んだ時、その解説文を丸谷才一が書いていて、その内容がおもしろかった。実は、彼の小説は一つも読んだことがない。ジョイスの訳者として以外は、皮肉の効いた読みやすいエッセイを書く人としてしか知らない。昔、相撲の八百長問題について「芸者の嘘や相撲取りの八百長に目くじらたてるのは野暮」といったことを書いていたのを覚えている。あれは何という本に収録されていたのだろう。他のエッセイもおもしろかった記憶がある。
日本の絵本限定。いつか外国の絵本も選んでみようと思ってそのままになっていた。『猫と悪魔』はマイベスト10に常に入る絵本。