元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

「学習/科学 5年の読み物特集号 1973年版」(学習研究社刊)*読書日記16

小学生の頃、夏休みになると、「読み物特集号」という雑誌を買ってもらっていた。学校で注文を取りまとめていて、終業式の日にもらって帰っていた気がする。

 

この夏、古本屋で見つけたので、懐かしくて買ってきた。(学年がズレているので、この本自体を当時読んだわけではないです)

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 子供の頃は(なんで日本の話はこんなに辛気臭いのが多いんだろう)と思っていたが、大人になって読むと、時代を感じる話も多くて面白かった。

 

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 目次がページ順ではないのが斬新。

 

 

以下、各篇の紹介と感想を掲載順に。

 

北極への白い道(探検ノンフィクション)

リュートゲン 原作/関楠生 訳/古賀亜十夫 絵

ジャネット号による北極探検の話。30ページくらいだが読み応えあり。今読んでもおもしろかった。ただ、いきなり冒頭作これ? と思う。結構、悲惨な結末なので。

 

ヤッコの子っこ(動物物語)

安藤美紀夫 文/坂本健三郎 絵

北海道の酪農の話。マサルのけんか友達ヤッコのうちは酪農に見切りをつけて札幌に引っ越していった。設備や牛など一切を買い取ったのはマサルの家だ。マサルは農家なんかいやだと思っているが、ヤッコのかわいがっていた牛が仔を産むと、その様子が気になって仕方がない…酪農の様子がわかりやすく描かれている。作品の後に「作者を囲んで東京の小学生が作品の感想を話し合う」という記事が載っていた。子供の頃は、こんなのいらないのにと読み飛ばしていたが、今読むと、自分たちの日常とかけ離れた生活に興味津々な子供達が可愛らしいし興味深い。

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 雑誌の見開き。目次の背景も北海道の酪農風景だし、作品を読みながら想像しやすいようにという工夫だろうか。

 

虫が鳴く(詩)

鶴見正夫 詩/小坂しげる

こういうタッチのさし絵、よくあったなあと思った。検索したら童美連(日本児童出版美術家連盟)の会員らしい。意識しないまま、この人の挿絵の本をたくさん読んだのだろうな、私。

 

赤い海(SF)

加納一朗 文/金森達

「紀元2000年代の未来の物語」となっている。青い海が赤潮でダメになり、海洋生物が死に絶えた、という設定。さあ、いまから話が展開するぞ、というところで終わってしまった。続きがあるといいのに。

 

八重山のテンブンヤー(伝記)

谷真介 文/野崎猛 絵

石垣島の測候所に長く勤務していた岩崎卓爾の伝記。この人のこと知らなかった。ちゃんとした?伝記を読みたくなった。

 

Xはかせの大発明(漫画)

小川哲夫作

4ページの漫画。リモコンで操作できる人工雲が部屋から逃げ出して…という話。さらっとした線が好き。

 

おじいさんの日記の秘密(外国推理名作)

ミルトン=ロマスク 原作/前田三恵子 訳/吉田郁也 絵

田舎のおばあさんの家に兄妹で泊まりに行って、地元の子と知り合い、泥棒騒動に巻き込まれる話。子供の頃は、こんな外国の読み物が一番好きだった。50ページ程度。もう少し長くて子供同士が仲良くなるまでの過程などが書いてあるともっと楽しめるのに。読み物特集号だから仕方ないけど。原作を短く翻案したのか、元々この長さだったのか不明。作者はミルトン=ロマスク。←この人知らない。検索してもでてこない。

 

お役者人形(歴史物語)

菊地正 文/高橋国利 絵

日照りで困っている村の名主の家に、旅の坊さんがやってきた。名主から雨乞いをやってほしいと乞われた坊さんは…人情話。昔の時代小説に似たような話がありそう。

 

りすをつれた少女(戦争と平和の物語)

上崎美恵子 文/鈴木義治 絵

千枝は、どうしてもペットを飼ってくれない母のことを、生き物が嫌いなんだと思っていた。しかし、母には悲しい思い出があったのだ…幸子(=千枝の母)は母親と疎開先の伯父の家に電車で向かう途中、ある男の子と出会う。彼はかごに入ったりすを連れていた。電車は空襲に遭い、幸子は母を亡くし男の子ともはぐれてしまう。一人、伯父の家に疎開した幸子だが、食糧難なのにりすを飼うなんてと非難され、家を飛び出して東京へ戻り浮浪児として街で生きる。男の子との再会、りすを返すことを心の支えにしながら…作品の後に児童の感想文と作者の言葉あり。この雑誌が出版された1973年は、戦争を自分のこととして語る大人が身近だった。私も母から福岡大空襲の話を聞いたりしたっけ。作品の冒頭は千枝が母親とデパートのペット売り場に寄るシーンから始まる。デパートは平和や豊かさの象徴のようだ。

 

迷宮のなぞにいどむ(発掘ノンフィクション)

たかしよいち 文/柳柊二

アーサー・エバンスによるクノッソスの発掘物語。出土品のカラー写真などもあり。20ページ少しだが、ミノタウロスの伝説の紹介、博士逝去後の研究の現状なども盛り込まれてわかりやすい。

 

おとこの意地(漫画)北山竜

この人、学習漫画をよく描いていた記憶がある。立ち読みをする男の子と店主の戦いを描いた漫画。見開き2ページの作品。

 

タタラ番子うた(創作民話)

那須正幹 文/神谷靭彦  絵

タタラ職人のかしらの娘と、タタラ番子(ふいごをふむ人夫。身分が一番低い)との悲恋の話。当時の創作民話はなぜか物悲しい結末になるのが常で、子供の頃はそれが本当に嫌だった。今も好きではない(笑)。民俗学的な興味は持てそう。

 

虹のてがみ(空想物語)

安房直子 文/遠藤てるよ 絵

やまびこの精と虹の精の話。安房直子らしい、きれいな話。遊園地や動物園を作るために山が崩され、やまびこや虹が住めなくなる、という設定が高度成長期の話っぽい。

 

魔術(名作)

芥川龍之介 文/武川功三郎 絵

小学五年生に紹介するにはちょうどいい話か。文末に ”「魔術」は大正時代に活躍した芥川龍之介というすぐれた作家が、児童向けに描いた作品です。いかがでしたか。次の頁にお友だちの感想文がのっています。あなたの感想と比べてみましょう。” と太字で書かれている。←こういうの、当時、興を削がれてうんざりしてた(笑)。

 

収録作品は上記のとおり。今読むと、なかなかバランスが良く工夫されている「学習教材」だ。巻末には「感想文教室」という記事があって、どういうふうに作文を書くと良いかのアドバイスや、模範?作文も載っていて、いたれりつくせりだ。例示されている作文が、「生き別れになった弟と再会する」という題材なのにはちょっと驚いたけど。これを参考にして自分の生活作文を書くのは難しくない? 懸賞付きの感想文募集もある。入賞賞品は「少年少女 新しい世界の文学 20巻」と豪華だ。ちょっとがんばって出してみればよかったなあ。佳作だと「学研版 ホームズ全集」から一冊となっていた。

 

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