元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

「ジュンと秘密の友だち」(佐藤さとる)*読書日記14

匿名ダイアリーの

高圧送電鉄塔萌え、高圧送電鉄塔観光ってないのか?

を読んだら、『ジュンと秘密の友だち』のことを思い出した。

 

 最初から講談社で出版されていたと勘違いしていたが、初出は岩波書店みたい。『佐藤さとる ファンタジー全集10巻』(講談社)にも収録されている。私が現在持っているのはこの全集本だ。(挿絵は岩波版や講談社文庫版のほうが多かった気がする。小屋の設計図とかあったと思う。多分)懐かしくなって読み返してみたら、大人が読んでも十分おもしろい話だった。今は流通していないようで悲しい。

 

********************************

ジュンの家から崖伝いの小道を数メートル降りたところに、家族が「小庭」と呼んでいる場所がある。崖を削って平らにした小さなスペースで、父親が植えたつつじに囲まれている。座り込んでしまえば誰からも見えない秘密の場所だ。ただ、数百メートル離れた向かいの丘の鉄塔だけは、いつも小庭を覗いているように見える。幼稚園の頃、そのことに気づいたジュンは、先生に聞いたばかりの「ダイダラボッチ」の話から「ダイ」をとって、鉄塔に「ダイスケ」と名前をつけた。

 

小学3年生になったある日、ジュンは小庭の横の崖すそを削っていた。今は埋め戻されている防空壕の跡を掘り返していたのだ。作業に疲れたジュンは「ダイスケ塔」に目をやり、「こっちへこい、腰かけさせてやるぞう。」と声をかける。すると眼の前のつつじのあいだから、見知らぬ男の子がでてくるのだった。この見知らぬ子を鉄塔の化身ではないかと思うジュン。男の子の提案で穴堀りはやめにして、小庭に小屋を立てることに決める。

 

十日ほどたち、小屋の材料を集めたジュンが、それを小庭に下ろした時、再び男の子が現れる。彼は「蜂山十五(ハチヤマ・ジュウゴ)」と名乗り、向かいの丘に住んでいるのだという。二人は一緒に小屋作りをし、小庭でおやつを食べる。ジュンは彼に「ダイちゃん」というあだ名をつける。その後も、ジュンは時間をかけて一人で少しずつ小屋を作りながら、ダイちゃんとまた会う日を待ち望む。が、彼は現れなかった。ある日、ジュンは向かいの丘までダイちゃんを探しに行くのだが…。

******************************

家族や友人とのリアルな世界、ダイちゃんと過ごすファンタジックな世界の双方が、魅力的だ。小屋が建つまでの過程も具体的でおもしろいし、家族とジュンの距離感もいい。キジバトや野うさぎの役割や、ダイちゃんの出現で変化する小屋の中の様子も楽しい。ダイちゃんと鉄塔の関係や、なぜジュンの元に現れたのかについては、最後の最後まで(あ、そうくるか!)と思わせる。

 

物語の冒頭に「はじめに」という数ページの文章があって、ジュンの姉のミサオとノブ叔父さんのことが書かれている。「ものを作ることは、作る人の魂をものにこめることだ」というノブ叔父さんと、おっとりとして物静だが滅法機械に強いミサオ。ミサオは物語の最後に少しだけ登場し、ノブ叔父さんは名前だけしかでてこない。「それでも、この本を読む人は、どうぞこのふたりのことを忘れないように。」と結ばれたのちに本編が始まる。ミサオの存在は、物語の終わりに明るい光を与え、ノブ叔父さんの言葉は、ダイちゃんの存在へとつながっている。

 

 

だれも知らない小さな国』は佐藤さとるの代表作で、コロボックル物語第1作。「佐藤さとる公式Webサイト」の年表中、「ジュンと秘密の友だち」に関して、以下の記述がある。

コロボックル物語4作目の換わりに、岩波書店に書いた作品。いぬいとみこ氏に「待った甲斐があった!」と言わしめた秀作に。多くの作品群のうち、著者 に、書きはじめからラストシーンわかっていた、たった一つの作品でもある。

だれも知らない小さな国」と「ジュンと秘密の友だち」は、秘密の場所に自分だけの小屋を作るところが同じだし、他にもいろいろと似ている点がある。(細かいところだと、ジュンの友達が鳩に気づくシーンは、「だれも知らない小さな国」で外人牧師がコロボックルをコオロギと見間違うシーンを思い出す。現実世界とファンタジーの世界がつながる瞬間。)「だれも知らない〜」の主人公は父を戦争で亡くした青年だったが、「ジュンと〜」も戦争に関係がある話だ。佐藤さとるは軍人だった父を戦争で亡くしている。そのことを考えながら読むと、「ジュンと秘密の友だち」の最後は、著者の願いでもあるのかなと思う。

 

机の上の仙人: 机上庵志異

机の上の仙人: 机上庵志異

 

挿絵が変わって新版が出ていた。童話作家の机の上に、小さな仙人が現れ不思議な話を語る…聊斎志異を元にしたファンタジー短編集。とにかく面白いです。