母と祖母の着物を洗い張りして、私サイズの羽織と着物に仕立て直すことにした。「着物は一生もの、三代着られる」確かに嘘じゃない。ただ、今はリサイクル市場で数千円も出せば未使用の着物が買える時代だ。今回の仕立て直しは羽織と着物一着ずつの洗い張り、八掛、胴裏、羽裏、仕立て代すべて入れると10万円以上かかる。よほどの逸品か思い入れがある着物(今回は後者)でなければ、それだけの金額を払う価値があるとは思えない。
私は嫁入り道具に着物一式揃えるような裕福な家庭育ちではないし、それは母も同じだ。父方母方二人の祖母は日常的に着物を着ていたが、限られた枚数を大事に着回していた。だから、残された着物は、汚れた訪問着を染め直した小紋だったり、胴回りが帯で擦れていたり、擦れた衿を表から見えないように上下逆に付け直していたり…大半は着古している。あまりに状態が悪いものは解いて綺麗な部分だけ残して処分した。
「着物は一生もの、三代着られる」は、「着用頻度が低い美品か補修費用をかけてもよい品」ならそうかも……くらいの話で、それは洋服だって同じでは? 私は、バブル期に買ったコートの肩パッドを外して一部手直ししてもらい、襟や袖口の擦れを補修しながら着てきたし、気に入ったジャケットが色褪せた時は染め直してもらった。60歳近くまで着たわけで、ほぼ一生ものと言えそう。
45rpmのジャケット。「擦り切れるまで聴かれるレコードのように、長く着込まれる服でありたい」ということで、このブランド名になったそうだ。私、擦り切れても着てる…。新しく買い直そうにも、同じくらい気に入るジャケットがなかなかないし、あっても予算オーバーなんだよな。
洋服のリフォームの方が安いしバリエーションが豊富だ。ジャケットの染め直しは5,000円程度だったが、着物を染め直したら最低でも数万円かかる。洋服は違う布を足したり形を変えたり自在に注文できるし、仕立ててくれる人からアドバイスももらえる。その点、着物は難しい。洋服のリフォーム屋はわりと身近だが、呉服屋や悉皆屋は馴染みがなくて敷居が高い。
今回、祖母の着物がかなり小さいので、対丈にしたり別布を継いだりできないか聞いたが、悉皆屋、呉服屋(どちらも親切でした。念のため。)からは、「それより羽織にした方が良い」と勧められた。ほとんど着物を着たことがない一見の客にイレギュラーな物を仕立てて、後から苦情がくるのは嫌だろうし仕方ないと思う。好みを把握している馴染みの客なら、色々提案してくれるのかもしれない。柴田理恵さんの着物とか、いいな〜と思う。
私は持っていないのでよく知らないが、手縫いのスーツやジャケットは頻繁にクリーニングに出したりしないそうだ。着たあとは、その都度丁寧にブラシをかけて汚れを点検するんだろうな。着物を扱うように。「三代着られる一生ものの着物」と比べるのは、そういう洋服であって、そこらで売ってる既成服と比べるのはフェアじゃない気がする。というか、洋服が使い捨てになったのはファストファッションが台頭してからのことで、それまでは、もっと丁寧に修繕しながら着ていた。古くなったセーターとかもほどいて編み直していたもんな。
息子の七五三の服。夫の古いスーツを使って母が作ってくれた。内ポケットやネームも付いている。捨てられなくて押入れの衣装ケースに入れたまま。洋服も二代で着ている。そういえば、コートの手直しのためにデパートのリフォームコーナーに行った時、父親のコートを娘用に仕立て直した話を聞いたっけ。
母の着物は9年前に整理した。その後、祖母が亡くなった際に、祖母が手元に置いていた着物を含めて母と叔母でもう一度整理したらしい。私は物を捨てるのが下手なので、減らしておいてもらって助かった。
物を修理して使うのは贅沢になった。