元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

算数雑感

奇妙な記号

小学生の答案添削の仕事をしていた頃、答案の余白に時折り奇妙な図が書いてあるのが気になった。丸の中をT字に区切り、その中にひらがなを一つずつ入れている。文字は様々だ。

 「こういう図、知ってる? 中にひらがなが書いてあるやつ。時速の問題に関係あるかも」と図を描いて娘に聞くと、

「ああ、『きはじ』だね。学校で習った。距離、速さ、時間の関係を表す図」

「いや、全然別の文字が入ってたりするけど」

「ん〜『くもわ』とごっちゃになったんかな?『木の下のハゲ爺さん』って覚えるんよ」

「他にもあるの⁇  ってか、その覚え方だと『ハゲ爺さん』だけ頭に残りそうだね」

 

 「きはじ」「くもわ」

「距離、速さ、時間」や「くらべる数、元になる数、割合」は、小学生の算数の中でも鬼門だ。これらを学習する五年生は、小数や分数を習う学年でもある。急に多くの概念が出てくるのでつまずく子がとても多い。最近、はてなでもそういう記事が話題になっていた。

anond.hatelabo.jp

この記事にもコメントしたが、Z会のサイトに掲載されていた記事(小田先生の算数お悩み相談室「割合」とはなにか)ががとてもわかりやすかった。他の記事もおもしろかった。

 

この鬼門を乗り切る方法として機械的に計算ができる図、「くもわ」「きはじ」を教えるようになったのだろう。

 

しかし、私にはこれが悪手にしか思えない。答案の余白に描かれた図は、正しく「きはじ」「くもわ」の文字が入っていないことが多々あったし、描いている子の正答率も低かった。(なんか授業で図を習ったけどなんだっけ? どうやって使うんだっけ?)と悩んでる子の姿が見えるようだ。意味が分からず興味もないままに覚えさせられたことは、あっという間に忘れる。

 

しっかり分かっている子は必要ないので使わない、分からない子は曖昧にしか記憶できず使えない。便利に使っているのは、本来この図を使わなくても簡単な数字を当てはめたり身近な例を思い出したりすることで正答できたはずの子達。考えることを省略し回答までの時間を短縮しているだけだ。

 

 小学校の算数とその指導法

塾講師として小学生に直接算数を教えるようになると、教科書を詳しく読む機会も増えた。一年生から六年生まで「段階を踏んで、数という概念を体得させよう」という意図は分かる。しかし、一年生から順を追って着実に理解を深めていかなければ、その実現は難しい。実際には「文章題の中に出てくる数字を適当に加減乗除して答えを出す」子達がかなりいる。低学年のうちはそれでけっこう正答してしまうのだ。そういう子達は、高学年になって小数、分数、割合などの新しい概念が次々と出てくると、文章題が全く解けなくなってしまう。

 

www.grisella.jp

 

さくらんぼ計算」「かけ算の順序」「きはじ」「くもわ」など、現在小学校で取り入れられている指導法は、スムーズに授業を進めるための工夫であって、子供達の理解を深める工夫とは思えない。(「さくらんぼ計算」とはどういうものかは下記の記事を読んでもらうと分かるだろう。) 

togetter.com

 

新しい概念を体得するのに「まずやり方を暗記して数をこなす、そのうち意味が分かってくる」という方法は一理あるが、その作業に楽しさはない。また、子供の側に「意味を考える」メリットがないので、そこまでたどり着けない子が多い。

 

 初めて算数に触れる小学生には、もっと試行錯誤しながら、考える力を鍛えて欲しい。今の学校体制では難しいだろうが。一人の担任が数十人の生徒を相手に授業をし、生徒全員が同じ期間内にカリキュラムを修了しなくてはならない…これは相当無理がある。昔の寺子屋のように少人数異年齢で学習できるようになればいいのに。 

 

togetter.com

 

さくらんぼ計算」より、こうやって他人がどのように考えて計算しているのかを知る方が楽しいし、数について学べると思う。多分、そうやって試行錯誤する時間が今の学校にはないんだろうな。

 

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角度の単元を教えると、まず最初の「角度を測る」で、例えば15度を165度と間違える子がいる。90度の大きさを聞くと理解しているので「それより大きい数だとおかしくない?」と聞くと、「あ、そうか」でも、次の時間に復習するとまた同じような間違いをする。興味が持てないことは覚えられないよね。うん、分かる。どうやったら学習意欲を持ってもらえるか…難しい。一方、すぐに分度器の使い方を飲み込んで、あっという間に難易度の高い角度の問題を解くようになる子もいる。これだけ学力差がある子達数十人を同時に教える…学校の先生は大変だ。

 

www.grisella.jp

 

うちの息子は算数・数学大好き少年でした。彼のために買った本の数々を紹介しています。十数年前のことなので、古い本ばかりですが、どれも自信を持っておすすめできます。(算数・数学以外の本も多いです)

 

*余談?*

算数の文章題でつまずく子が多いのは、算数独特の言葉の使い方のせいも大きい。「元になる数」なんて普通の会話で使わないし。「〜に対する〜の割合は」といった言い回しも独特。小学生は高学年でも日本語を習得してまだ十年ちょっと。読み書きできるようになってからは数年足らず。そりゃ難しいよなあ。