少し前、夫のスーツのスラックスを洗濯したら、裾が擦れてほつれていた。夫によれば、長めの丈が流行っていた頃の服(そんな流行あるのか?)なので少しくらい短くなっても支障ないそうだ。普段着なら私が繕うが、スーツはハードルが高い。近くのショッピングセンターに入っているリフォーム屋で修理してもらった。さすがプロという仕上がりで、かかった費用は1,500円。新しくスーツを買ったらこんな金額では済まないので助かった。
今日はその店で、ワイシャツの襟だけ作り直せないか聞いてみた。十分着られるのに襟だけ傷んだもので共布もある。店員さんが「できますが結構高いんですよ」と言いながら値段表を見せてくれた。紳士シャツ襟直しの値段は4,000円。 技術への対価として考えれば、それほど高くない。でも、4,000円かけるほどの高級品でも思い出の品でもないので、作り直しはあきらめた。
できれば、修繕しながら大切に物を使っていきたいが、洋服や着物の仕立て直し、染め直し、陶器の金継ぎ、漆器の塗り直し…どれも私にとっては非日常感がある「贅沢」だ。
子供の頃、傘修理のおじさんが庭先で作業をするのを見たことがある。あれは一軒ずつ注文をとって廻っていたのか、売り声をあげながら往来していたのか、よく覚えていない。傘も修繕して使う物ではなくなった。
「物売り」で検索したら、青空文庫の寺田寅彦の随筆がヒットした。(「底本:『寺田寅彦随筆集 第五巻』岩波文庫、岩波書店」と記載されていたので、この本にリンク貼ったけど、収録されているかどうか確かめてません。)
寺田寅彦 物売りの声(←青空文庫へのリンク)
江戸時代を舞台にした小説を読んでいると、様々な「物売り」が出てくる。往来が今よりずっと楽しい場所だったように思える。昭和15年に、寺田寅彦が「売り声の滅びて行くのは何ゆえであるか、その理由は自分にはまだよくわからないが、しかし、滅びて行くのは確かな事実らしい。」(「物売りの声」寺田寅彦随筆集5巻に収録)と書いているのを読んで意外だった。売り物自体に流行廃りがあるにせよ、「物売り」が滅び始めたのは戦後だと思っていた。
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気に入っていた服を補修した時の話。この服の染め直しを頼んだ店、D-DEPARTMENT福岡は閉鎖されてしまった。コーヒーゼリーのパフェが美味しかったのにもう食べられない。悲しい。この記事の中で触れたearth music&ecologyのスカートはワンシーズン着たら毛玉だらけになってしまって部屋着に格下げした。そこそこの品質と価格の服を探すのは難しい。