元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

「上野千鶴子著『マザコン少年の末路』の記述をめぐって」(河合文化教育研究所)*読書日記15

東大の祝辞の件では、絶賛の声が多くてとまどい、いくつかブコメを書いたけれど、そのあと考え込んでしまった。「匿名で発言することにどこまで責任を持つか」ということについて。

 

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 「自分が興味があり労力を割くだけの価値がある、と思うこと以外は視界から遠ざけるしかない」というのが当面の結論だが、「黙っていること=賛同」と思われたら嫌だという思いもある。

 

そんなことをぐずぐずと考える中、このブックレットを手に取った。上野千鶴子氏の著書『マザコン少年の末路』中に「自閉症や登校拒否は、母親の過干渉、過保護のせいである」という趣旨の記述があった。それを読んで、障害者問題に取り組む高校教諭が抗議の手紙を送った。その後、教諭と自閉症児の母親たち、著者、編集者らが一堂に会し、話し合いの場を持った。その経緯や結果をまとめているものだ。

 

「いろいろあったが最終的には分かり合えてよかった」という結論になるのだろうと思って読み始めた。しかし、そうではなかった。上野氏は「誤った専門家の意見を鵜呑みにした自分が悪かった」と述べるが、「では、あなたが参照した専門家の文献を見せてください」という問いには答えないし、「自閉症が母親の育て方のせいではないということは認めてくれますね」という問いにも「それは分かりません」と答える。

 

このブックレットに出てくる母親たちの主張には(え?)と思うところもある。それでも、彼女たちは自分の考えや思いを無防備にさらけ出し、それに対する相手の意見を聞こう、受け止めようとする姿勢を持っている。対して、上野氏の「言質をとられまい」「議論に負けまい」とする姿勢に失望した。社会的な問題に対して真摯に声を上げ行動すれば、たとえ小さな声であっても、なんらかの成果があるのではという淡い希望を持っていたが、それは希望的に過ぎるのかと思わされてしまった。

 

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

 

 

その昔、 一世を風靡した本。題名だけでうんざりして未読のままだ。当時、私にとって上野千鶴子氏は、今でいう「はあちゅう」さんみたいな存在だった。