元活字中毒主婦の身辺雑記

日常の細々したことなど。

装丁違いの本/『ロッテルダムの灯』/豆本の店

昨日、『錦の中の仙女』を2冊持っている話を書きましたが、岩波少年文庫には様々な装丁のバージョンがあります。この件に関しては百町森さんのサイトに詳しく載っています。

 

岩波少年文庫の装丁の歴史:本・絵本:百町森

 

私が子供の頃に親しんでいたのは、第3期版。ハードカバー箱入りで表紙に大きく挿絵が描いてあります。当時の私は「大人の本が小さくなったみたいでかっこいい」と思っていました。私が今でも小さな判型の本好きなのは、この頃の岩波少年文庫へのあこがれが影響していると思います。

 

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6期以外に特装版があります。写真は「岩波少年文庫創刊40周年記念 特装版」で、装画はウィリアム・モリスです。古本屋でかなりの冊数入手したうち、この2冊のみ手元に残しています。

 

以前本を買い漁っていた頃は、好きな作品の装丁違いを何冊も持っていました。最近ほとんどの本を手放した中で、庄野英二の『ロッテルダムの灯」だけは二冊持っています。大好きな作家なのです。左の本は私家版なのに、奥付に「レグホン舎」と出版社名が書かれています。当時庭で飼っていた白色レグホンの鶏舎から名前をとったと文庫版のあとがきに書いてありました。私家版は大切にとっておいて、読むのは文庫版です。

 

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冒頭に置かれた表題作「ロッテルダムの灯」は「講和条約が発効して日本が独立した年の七月、私はヨーロッパへの旅に出かけた。」と始まります。作者はBOAC機の機内で、朝鮮戦争で負傷し、入院していた東京のアメリ陸軍病院からイギリスへ戻る兵士に出会うのですが、兵士は「朝鮮における戦闘のことも、又どのようにして朝鮮へ行ったかも全然記憶を失っていて思い出せない」と言います。そして、「私が最後にたったひとつだけ覚えていることは、軍用船の甲板の上からロッテルダムの港の灯を眺めたことです」というのです。作品はこの兵士の言葉ののち、機内から見えるトルコの山々の光景で短く終わります。4ページ足らずの短い掌編。

 

ロッテルダムの灯』の私家版に「学窓を出てもっとも哀感多かるべき時期を、私は同時代のほとんどの人々と同じように戦場と兵営ですごしました。この本には、何らか戦争に関係あるものだけをえらんでみました。今この本を編むにあたり謹しんで戦没された方々に対し静かに鎮魂の祈りを献げたいと思います。」とあります。激しい戦闘シーンなどはほとんど出てきませんが、一人の生身の青年がその当時をどのように生きたかが散文詩のように描かれています。ぜひ一度読んでみて欲しい、おすすめの一冊です。

 

ロッテルダムの灯 (講談社文芸文庫)

ロッテルダムの灯 (講談社文芸文庫)

 

 

*これを書きながら思い出したこと*

 

高校の修学旅行は東京観光でした。グループ行動だったので三人組でいろいろなところを回りました。偶然、豆本の店を見つけて入ったら、並んでいるのは、ほとんどが工芸品のような精緻なもので、高校生の手が出る値段ではありませんでした。それでも、店主があれこれと丁寧に説明してくれて、申し訳ないような、でも楽しい時間を過ごしました。たしか、安価なピーターラビットの本三冊セットを購入したと思います。その後、かなり長い間、目録が届きました。買いもしないのに悪いなあと思いつつ、読むのが楽しみで届くのを心待ちにしていました。(大人になったらいつかもう一度行って、お礼になにか一つ綺麗な豆本を買おう)と思っていましたが、ときおりふと思い出してみても、訪問する機会もなく、そのうち本から遠ざかってしまう生活になり……去年だったかに久しぶりに思い出して検索してみたところ、2016年に閉店しているのがわかりました。残念です。今なら度々上京するのでどうにか行けたのに。なんとか一冊記念に買うくらいはできたのに。まだ閉まる前の様子が、デーリーポータルZの記事にありました。

 

デイリーポータルZ:豆本の世界へ