この間、『よるねこ』を読んで物足りない気持ちになったので、続けて『偶然の祝福』を読みました。「怖さと幻想味」への欲求がほどよく満たされました。
小川洋子は、芥川賞受賞作の『妊娠カレンダー』とベストセラーになった『博士の愛した数式』の他はエッセイや短編集を二つ三つ読んだだけです。『妊娠カレンダー』は、人の心の分からなさや怖さが描かれていますが、ほら、怖いでしょうと声高に語らず、クールに観察するような筆致がおもしろかったです。ですが、受賞後のインタビューで、アンネ・フランクに強い興味を持っていると言っているのを読んで、なんだかぞっとしてしまって、その後、長いこと、この人を敬遠していました。
次に読んだのは『博士の愛した数式』です。「他者へのいたわりや愛情の尊さ、すばらしさを見事に歌いあげる」作品であるという評判と『妊娠カレンダー』の読後感に大きなギャップがあって、なかなか手に取れませんでした。読んでみてもハートウォーミングな話とは思えませんでした。おもしろかったし好きだけど。私にとっては、「不安定で不完全な人間。その不安や恐れを、数学という言葉を共有することで耐えていく話」でした。
私は多分、人一倍不安や猜疑心が強いです。そのため、小川洋子の作品を読むと、やすらぎよりも不安を強く感じます。長編を読むには精神の安定が足りないです。最近は、わりと精神的に安定しています。『偶然の祝福』を楽しめたのはその証拠だと思いました。
- 作者: キャサリン・マンスフィールド,崎山正毅,伊沢龍雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1969/03/17
- メディア: 文庫
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大好きな作家を一人挙げよ、と言われたら、マンスフィールドを挙げます。小川洋子を読むと、マンスフィールドを思い出します。二人とも邪悪さ、不安、悲しみを優雅に描く作家です。この本の中では表題作の「園遊会」が特に好きです。大学に入ってすぐに授業のテキストとして読みました。ラスト、主人公の少女が「人生って……」と口ごもって言葉にできないシーンで、読んでいるこちらも胸がいっぱいになったのを覚えています。
夫と車に乗ってラジオを聞いていたら、気さくなおばさんが文学作品について語っていました。誰だろうと思ったら小川洋子でびっくりしました。イメージと全然違った。